◆読書会 活動報告 2015年◆
2015年 11月19日(木) 参加者8名
読んだ本:
「二つの母国に生きて」
ドナルド・キーン著 朝日文庫
先日、NHKでドナルド・キーン氏の伝記が上映され、本書も28年前1987年に朝日新聞社既刊の同タイトルの本が今年になって新たに文庫本化されたものである。東日本大震災を機に日本国籍を取得されたこともあってか、最近とみに氏への注目が高まっている感がある。

一読し、氏の偉業に改めて感服した。読書会の出席者の感想もおおむね賛辞であった。まずは収録された多数のエッセイの日本語・日本文の流麗さ、そして日本の古典から現代文学や歌舞伎や能などに至る日本文化への博識と深い洞察による理解。本書にしばしば指摘されている「外国人には、日本語や日本文化などは理解できるはずがない」という日本人一般の疑念が、ここに彼自身によって根底から覆されていることが分かる。

エッセイ「戦争犯罪を裁くことの意味」「刑死した人たちの声」では、日記やメモなど書き残された肉声を読み込み、東京裁判の意味をさまざまな角度から自問自答し、偽らぬ自己の声を探る氏の誠実な分析に圧倒される。三島由紀夫ら文学者との幅広い交流もみられる。

氏は1922年6月18日、アメリカ合衆国ニューヨーク市生まれ。現在93歳。中国文献の漢字に惹かれその延長線上で日本語を学びコロンビア大学に入学。太平洋戦争では日本語通訳官をつとめた。1953年(昭和28年)京都大学大学院に留学。以来日本研究に携わり、日本に関する著作は、日本語30点、英語約25点にのぼり、受賞歴は14、栄典では2008年の文化勲章が、初めての外国出身者として受賞ほか4件。名誉博士として1978年ケンブリッジ大学他12大学があがっている。
ドナルド・キーン氏の二つの母国のひとつが日本であったことの幸運をよろこびたい。現役で93歳の現在もお元気であられるとのことである。                               
(担当:鈴木千歳)
【次回】
JSS読書会は2016年1月21日(木)11時半より。
読む本:R・L・スティーブンソンの著作の一つを読み、討論。
参加ご希望など、お問い合わせは事務局までお願いいたします。
2015年 10月15日(木) 参加者8名
読んだ本:
「忘れられた巨人」
カズオ・イシグロ著 早川書房
著者紹介:
1954年長崎に生まれる。5歳より英国に住み二つの文化を背景に育つ。
今やブッカ―賞など数多くの英国の文学賞に輝くベストセラー作家。

この度の長編はファンタジーの世界仕立てと云うことで何かとにぎやかに、この春出版された。
「単なるファンタジーではない。」と作者は言うが、またまた驚きの舞台設定である。そして、いつも乍らの、この作者独特の精緻で静謐な文章にすっかりはまって、久々に伝説の世界を旅してしまった。
物語は「奇妙な霧」をはいて記憶をコントロールする竜の「クエリグ」が一つの鍵である。たたづまいよく、しかし妻を”お姫様”と呼ぶ、いわくあり気なアクセルとベアトリス老夫婦が主人公であり、記憶の中の息子を訪ねて旅にでる。ブリトン人である「クエリグ」を操る老騎士ガーウィンはアーサー王の円卓の騎士で、古い英国のブリトン人である。竜退治を目指すサクソンの剣士ウィスタンに、やがて、ガーウィンは敗れ、クエリグも葬られる。記憶は明るみに出て、一気に終章へと向かう。
ここで、「忘れられた巨人」は、命題でもあるその真実は何か?「クエリグ」ではないのか。記憶の功罪を言うのでは。サクソン人のブリトン人への復讐心。そして、その昔の古い時代の英国。争いの時代である等々。皆それぞれの意見であった。
”私と一緒に「愛の物語を楽しんで」、、、”と作者は言っているような気もするのだが、、、
(担当:高橋)
【次回】
JSS読書会は11月19日(木)14時半〜16時半です。
読む本は「二つの母国に生きて」 ドナルド・キーン著 朝日文庫
参加ご希望など、お問い合わせは事務局までお願いいたします。
2015年 9月17日(木) 参加者8名
読んだ本:
「『イスラム国』よ」
鎌田実著 河出書房新社
”報復に報復はやめよう。憎しみには愛を。“と帯封に大書されたこの本の著者鎌田実氏は現在、諏訪中央病院の名誉院長であり、日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)の理事長と日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)の代表を兼ねておられ、1991年よりベラルーシ共和国の放射能汚染地帯に、100回も医師団を派遣され、約14億円にものぼる医薬品を支援し、また2004年にはイラク支援を開始、イラクの4つの小児病院に医薬品を送るとともに、難民キャンプでも診察、診療活動を続けておられます。本書は、この ”自らの危険を省みず、“ 難民救済と人類平和のために、ひたすら献身されている著者の心の叫びであり願いと祈りの書でもあるといえます。とりわけ、「イスラム国」へ参加している青年たちへの訴えかけは、一讀身に沁む思いがしました。

著者はあとがきでこう述べておられます。
「『イスラム国』よ、と心で呼びかけながら、この本を書き始めました。「イスラム国の中に、世界全体のことを考えている視野の広い、志の高い青年が、少数でもきっといると思い、その青年に呼びかけるように書きました。……」と
著者は最終章「聴診器でテロとたたかう。」で「僕は聴診器一本でたたかいたい」と締めておられます。
この著者のヒューマニティ溢れる決意と信念と行動に感動しつつ、またわが国の昨今の政治の惨状などを重ね合わせながら、参加者それぞれがそれぞれの思いを真摯に語り合った2時間半の読書会でした。
(担当:吉田)
【次回】
JSS読書会は10月15日(木)14:30-16:30です。
読む本は「忘れられた巨人」 カズオ・イシグロ著 (株)早川書房
お問い合わせは事務局までお願いいたします。
2015年 6月18日(木) 参加者12名
読んだ本:
「鉄の街のロビンソン」
富森菊枝著 影書房
物語は主人公が転校してきたばかりの北海道室蘭が舞台。土地の人、級友達と知り合い交流を深め、生き生きとたくましく成長して行く少年六(ロク)の、ひと夏の若々しい日常と体験が描かれている。

ある朝バイクと接触し自転車のミラーを壊された事が、六に働こう!という意欲を生んだ。
石油缶に豆腐を入れ自転車で売り歩く仕事が始まったが、なかなか思うように売れない。あれこれ知恵を働かせ大変な思いをしながらもめげずに続ける決意をする。
級友ミキとその兄はアイヌで、劣等感を抱きながら生きてきた。兄は土地の人たちが、アイヌに偏見を持って接して来る事に怒り、不満を六にぶっつけてくる。しかし六は偏見を持っていないとはっきり伝え、心が通じる。
さらに海の見える丘で知り合ったおじさんから遺跡の話を聞いてからは、ミキ、ミキの兄、六、そしておじさんの間に強い連帯感が芽生え、発掘を手伝いながら縄文文化期〜縄文晩期にかけての発掘物に直にふれる事が出来た。アイヌが使っていたと思われる木製のお椀も出てきたのだ。
ひと夏のふれあいの間に、学校を休みがちなミキも2学期からは元気に登校するだろうと希望を持たせてくれたラストでした。

作者は中学生を読者対象にお書きになったと言うことですが、500枚からの長編は読みごたえがありテーマも一つではない。エネルギーが石炭から石油へと移る時代が背景にあり、大人の読者もさまざまな問題に向き合い考えることができました。

【次回】
JSS読書会は7月16日(木)14:30〜16:30です。
読む本は「蠅の王」 W・ゴールディング著 集英社文庫
お問い合わせは事務局までお願いいたします。
(担当:弘中)
2015年 5月21日(木) 参加者7名
読んだ本:
「林檎の木の下で」
ドリス・レッシング著 小竹由美子訳 新潮社
著者紹介:
カナダの女流作家。先祖がスコットランド出身で、2013年82歳でノーベル文学賞を受賞。
納められている12編の短編を通して描かれているのは、スコットランドの寒村から、カナダへ渡ってきた作家自身の一族のものがたりである。作者と等身大と思われる女性が主人公の、日常を描いた作品であるが、平凡な日常の中に潜む人の心のドラマに驚かされる。
祖父のこと、その妹チャーリー伯母さん(大叔母)それぞれの夫婦生活。父と、病気で亡くなった母。その後父が再婚した義母イルマ[アイルランド人]の人柄。作者自身の結婚にまつわる話等々……。
12編を通して読み取れるのは作者自身の云っているように、フィクションを交えた自伝であるということである。
その圧倒的な筆力に驚かされた。

出席者の読後感
・ノーベル賞受賞の二人の女流作家の作品を4月、5月と続けて読んで、共通点が日常的なことを書いていること。
・さすが!という表現が多かった。作家の力量のすごさを感じた。
・こんな人がいるのか!と。
・短編でノーベル賞受賞というのは驚き。
・世代が殆ど同じなのに、女性の生き方として大きな違いを感じる。

【次回】
JSS読書会は6月18日(木)14:30〜16:30です。
読む本は「鉄の街のロビンソン」 富森菊枝著 影書房
著者はJSS読書会のメンバーです。
お問い合わせは事務局までお願いいたします。
(担当:加藤田)
2015年 4月16日(木) 参加者9名
読んだ本:
「グランド・マザース」(原題 The Grandmothers:4Short Novels)
ドリス・レッシング著 山本章子訳 集英社文庫 2009年
著者紹介:
英国の女流作家。1919年ペルシア(現イラン)で生まれ2013年、94歳でロンドンで逝去。
2007年に88歳でノーベル文学賞を受賞。
【感想と話し合ったことの要旨】
テキストには標題ともなった「グランド・マザース」の他3つの短編が含まれているが、まず「おばあちゃまたち」に話題が集中。英国の地方の海辺が舞台。60代の魅力的なロズとリルは幼い時から無二の親友で同じ海岸地方に住み、大学は別だが同時に結婚し互いに
一人息子を授かり、一方は離婚、他方は夫に死別。息子たちは其々結婚し孫も生まれる。
ところが、リズもロズも親友の息子たちと関係をもった秘密をかかえていた。それがあからさまとなる事件が起き表面上幸せだった二つの家族に破局が訪れるという内容。

「衝撃的」「信じられない」などが出され、英国の性のモラルの変遷、背景の社会状況、そういえばヒッピー族発祥の地は英国だったなど話題がひろがる。
レッシングはリズとロズが互いの息子と関係したことを「これこそ人生のすばらしさ」と言う。これは著者自身が社会の因習やモラルに縛られない、自由で自立し、自己に忠実に生きる強烈な個性の持ち主だったのではないか、に落ち着いた。著者の年齢からすると時代の制約で、なかなかこういう物語は書けなかっただろうが、時代の先取り、先見の明があるとも。先見の明と言えば、「最後の賢者」を強く推した方もいた。内容は古代都市が舞台。女性支配者が築いた、伝承の詩と音楽に充ち、平和で牧歌的な国が一人の無知な男性支配者により、軍事国家へと変貌する世界を描いたもの。現代が抱える問題にぴたり当てはまる警世の物語だと。

本書への率直な不満も出された。
@筆の運びのテンポが速いのはよいとして、唐突な場面転換や飛躍があり、ついていくのが大変。
A読みづらかった。翻訳の問題もあるだろう。
B嫌いな食事を無理やり食べたような読後感が残った。などなど。

【次回】
JSS読書会は5月21日(木)14:30〜16:30です。
読む本は「林檎の木の下で」 アリス・マンロー著 新潮クレスト・ブックス
です。お問い合わせは事務局までお願いいたします。
(担当:西田多恵)
2015年 2月19日(火) 参加者11名
読んだ本:
「もし僕らのことばがウイスキーだったなら」
村上春樹著 平凡社

シングルモルト、ウイスキーの聖地、アイラ島を訪ねる。当時、島には7つの蒸留所があった。
パブでその7箇所の”味”をテイスティング、どれも独特の「アイラ臭」強く個性的だった。丁度中間にあるのが、ボウモア、最も伝統がある蒸留所だが、現代に至るまで、完全手作りをとおいている、強い海の香りとかすかな甘さで、アイラモルトの女王と称されている。
もう一つ訪ねたのは、ラフロイグ蒸留所、コンピューター制御された近代的工場、そこで作られる、ウイスキーはヨード臭のある、癖のある味だが、チャールズ皇太子ご愛飲で今では英国王室御用達となっている。いずれも、水、氷、で割らず、ストレートで飲むべし。
アイルランドではいろいろなスタウト(黒ビール)に出会った、アイリッシュウイスキーはタップウオーター(水道水)で半分に割って飲む。

今回の読書会はことばはいらない”ウイスキー"があれば良い!ボウモア、ラフロイグ、2本をテイスティングしながら進めた。某大新聞の元記者から、ブラックニッカ販売時のサントリーとの熾烈な広告戦争の裏話を興味深く聞いた。協会の恩人ハワットさん来日時、ボウモアを持参された。沢山の氷を用意したらやんわりと断られた、タップウオターがあれば良いと。私はそのボウモアは何年もの?と気になった。
(担当:島越輝世)
2015年 1月13日(火) 参加者13名
読んだ本:
「中村屋のボース」
中島岳志著 白水社

1月の読書会は新年会もかねて、13日(火)に新宿中村屋と事務局にて催しました。

ボースと言えばチャンドラ・ボースとの答えがほとんどであるが、「中村屋のボース」ことR・Bボース(RASH・BIHARI・BOSE
ラース・ビハーリー・ボース)は別人で、同じくイギリスからのインド独立を目指す過激な闘士である。
植民地支配のインド帝国最盛期1886年生まれ。武器をもいとわない師の影響を受け、バガバッドギ―タ聖典から自己犠牲の精神を学ぶ。イギリス総督ハーディング爆発未遂事件の犯人として身を追われ、1915年日本に逃亡。新宿中村屋の相馬夫妻に巧みに匿われ、「神隠し」と世間の目をくらませた。

第一次世界大戦の勝利後、彼は中村屋の娘の俊子と結婚。そして彼が作った本場のカレーが、恋と革命の味「中村屋のインドカリー」として売りだされ現在にいたる。
独立を希求するR.B.ボースは、日本を足場に独立活動に邁進するが、帝国主義の色合いを深める日本はインドを苦しめるイギリスとおなじ穴の狢かと苦悩するも、終戦直前の1945年1月21日に無念にも病死する。日本の大東亜共栄圏という表の顔の裏に隠されたアジア帝国主義に翻弄されて58歳の生涯を閉じたといえようか。

しかし著者は、R.B.ボースの暴力は手段であり、「普遍的な理想へ到達するベクトルを有していた」と論ずる。
1947年インドは非暴力のガンディー主導で独立を達成した。先にスコットランドでもイギリスからの独立を問う選挙があったが、根底にインド独立と共通の問題を抱えているのかもしれない。
(担当:鈴木千歳)

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