◆読書会 活動報告 2009年◆
2009年 11月20日(金) 15:00〜 参加者14名
読んだ本:
「土曜日」
イアン・マッキューアン著 小山太一訳 新潮クレストブック

ロンドンに住む脳神経外科医のある土曜日の一日の出来事であるが、社会のこと、家族のことなどたくみに交差して、読者をどんどんとひっぱって行く。描写は緻密で優美。この作はブッカー賞の候補になり、ジェイムズ・テイト・ブラック賞を受賞。
現代の英国を代表する作家の作品である。
2009年 10月30日(金) 16:00〜 参加者13名
読んだ本:
「英国太平記 セントアンドリューズの歌」
小林正典著 早川書房

今回は「英国太平記」の著者とその友人も参加で、直接いろんな意見の交換もできました。読書会としてはいままでいろんな歴史の本を読んできたが、スコットランドとイングランドの複雑な絡み合いがこの本により一つの流れとして理解が深まったとの意見が多くありました。

この本に添付された年表は1286年のスコットランド王アレクサンダー三世死去に始まり、1329年ロバート・ブルース死去で終わっている。この期間、日本の南北朝の動乱の時代にも呼応しているが、当時強力なイングランドの王エドワード一世によるたびたびの侵略にスコットランドがいかに激しく戦ったか、そしてウイリアム・ウォレスやスコットランドの王としてロバート・ブルースがいく多の困難を乗り越えて祖国を独立に導いていったか。膨大な資料をもとに著者は歴史の複雑な絡みをわかりやすく、しかも迫力のある物語に仕上げている。
歴史ドラマの構想は5年に亘る滞英生活とその後の調査研究で著者は20年ぶりに出版できたと語っている。「中世の知性、志の高さ」を表した読み応えのある一冊である。
2009年 7月10日(金) 16:00〜 参加者14名
読んだ本:
「スコットランド王国史話」
森護著 中央公論新社

2009年7月の読書会は特別な会となりました。
1992年2月にはじまったこの会の100回目を祝う日となったからです。会場も田町の「牡丹」という料亭で、18年前数人だった会員もその日は14人の出席となり感慨ひとしおでした。
取り上げた本は原点をしのんで1992年6月に読んだ「スコットランド王国史話」森護著でした。当時お元気でJSSの会員に講義をしてくださった著者の森護先生のビデオを岸孝さんが会場で見せてくださり、古い会員にとってはさらに回顧ムードになりました。
2009年 5月29日(木) 16:00〜 参加者10名
読んだ本:
「マンスフィールド・パーク」
ジェーン・オースティン著 大島一彦訳

故ジェームズ・ハワットさんを偲んで、彼の愛読書だったジェーン・オーステインの作品ということで「マンスフィールド・パーク」を読みました。
著者のテーマがイギリスの地方紳士、牧師、中産階級の人たちですが、この小説は文庫本で700ページ、忙しがってる現代人がさっと読もうとする態度をまったく受け付けないものでした。まず、気持ちを落ち着けて、ゆっくりと読む「芸術作品」(M・ケネディより)です。登場人物の描写に風貌と物腰に高い評価をおいている様子が紳士だったハワットさんを髣髴させるものがありました。モームもオーステインの作品の中では一番好きだということです。
2009年 4月16日(木) 16:00〜 参加者12名
読んだ本:
「キルトをはいた外交官」
大塚清一郎著 ランダムハウス講談社

著者は、当協会会員で初代エディンバラの初代総領事をつとめられた元外交官。
この本の副題は「笑いは世界をめぐる」とあるが、まさに外交官としての大変な任務を遂行しながら、いつもユーモアとともに生きてこられた様子が書かれている。時々、にやりではすまなくて、吹きだしてしまうところがあるので、電車の中では読むことはお勧めできない。
2009年 3月27日(金) 16:00〜
読んだ本:
「福翁自伝」
福沢諭吉著

「福翁自伝」。福沢諭吉の伝記は自叙伝文学の傑作といわれている。率直な語り口で書かれ、読みやすくて面白い。激動の時代の真只中で、どんなときにも公正であろうとし、一身の独立がひいては国の独立になるという強い信念をもった諭吉の生き方は、現代の社会を生きるわれわれにも強い感銘を与える。
2009年 2月13日(金) 16:00〜 参加者12名
読んだ本:
「日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で」
水村美苗著

その前に、時間のある数人は世田谷美術館を訪れ「十二の旅・感性と経験のイギリス美術」を鑑賞した。十二とはイギリス人で日本となんらかの関係のある11人と1家族のアーティスト達のことである。時代は19世紀から現代までの作品。中でも、幕末から日本に滞在したチャールズ・ワーグマンの油絵の日本の日常を描いたものは興味深いものだった。
この展は日英修好通商条約締結150年記念のUK-JAPAN2008の参加企画である。

タイトルから日本語の危機のように身構えて読み始めたが、その大要は「言語とは何か」という問題を掘り下げて、実に豊富な学識を持ってわかりやすい例を挙げて解説している。日本語で書かれた日本の近代文学の偉大さについて、いま普遍言語として世界を支配する言葉で書かれた英文学に匹敵する価値があることを現代の日本人に痛切に訴えている。そして今直面しているインターネットなどによる英語の世界的な普及の中で、日本語や他の非英語圏の「国語」の存続を説くという視点がすばらしい。
2009年 1月9日(金) 参加者10名
読んだ本:
「美しき日本の残像」
アレックス・カー著

2009年最初の1月の読書会は本当に生憎の雨で寒い日でしたが、10名が出席しました。
生粋の日本人でない著者アレックス・カーの日本観とその感性に共感と、驚きと、多少の異論とで白熱した議論がありました。

「美しき日本の残像」は日本語で書かれ、1993年に出版されたものです。新潮文芸賞を受賞し、後に数カ国に訳され、世界の中では現代の日本文化についてのひとつの定番になっているそうです。
私たちは自分の家の中のことは、毎日の生活であまり気にかけないで過ごしてしまいますが、日本人が日本のことを気をつけてみていない間に、どんな状態になっているのか、を気づかせてくれる本です。「残像」という言葉が暗示するように。司馬遼太郎は新潮学芸賞選評を次の言葉で締めくくっています。
「ともかくも、読後、心を明るくした。これほど日本の暗さが描かれた本も少ないのだが。」

スコットランドを我々日本人が見ると、その国の人たちが見えないところが見えるばあいもあるかもしれないという意見も出ました。

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