◆読書会 活動報告 2008年◆
2008年 11月21日(金) 15:00〜
読んだ本:
「アイヌ神謡集」
知里幸恵編訳 岩波文庫

11月の読書会では、知里幸恵編訳の「アイヌ神謡集」を読みました。
イザベラ・バードの日記に書かれた北海道のアイヌ訪問に刺激されて読むことになったのです。詩才を惜しまれながら19歳で世を去った知里幸恵の感動的な日本語訳で、「その昔北海道の自由の天地で天真爛漫に美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた」アイヌ民族の口伝えのユーカラの神謡に触れることができました。日ごろ私たちは自然や古くからの言い伝えや美しい言葉を無神経に抹殺し続けているのにあらためて気づかされました。
2008年 4月25日(金) 16:00〜 参加者12名
読んだ本:
「日の名残り」
カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳 ハヤカワepi文庫

テキストは日系イギリス人カズオ・イシグロの「日の名残り」、土屋政雄訳。
1989年に英国最高の文学賞であるブッカー賞受賞作品で、古きよき時代の英国貴族の館に仕えてきた執事が主人公。オックスフォードシャイアのダーリントンホールで、今は亡き当主ダーリントン卿に永年仕えた執事のスチーブンス。第二次大戦後に当主となった新しい主人のアメリカ人、ファラデイ氏に勧められ、主人の車を借りて南西部に住む、かつて一緒に働いた女中頭のミス・ケントンを訪ねる旅に出たスチーブンスの淡々としたひとり語りで、美しい田園風景の描写と旅の途中出会った人々のエピソードを織り交ぜながら、亡き父親、最高の主人であったと彼が敬慕するダーリントン卿、淡い恋心を抱いていたミス・ケントンの思い出や、ダーリントンホールでの国際会議などのさまざまな出来事を回想する形式のストーリ展開。人徳のある主人に仕え、「偉大な執事」となるべく努力する彼はダーリントン卿に忠勤を励み、個人感情を抑制し、ひたすら滅私奉公に徹する。職務を全うするため、同じ屋敷で働いていた老父の最後を看取るのもあきらめ、ミス・ケントンへの想いも封印する。

「偉大な執事」になるためには地位に相応しい「品格」を備えていなければならないとするスチーブンスは「品格の有無を決定するのは、みずからの職業的あり方を貫き、それに堪える能力だと云えるのではありますまいか。並みの執事は、ほんの少し挑発されただけで職業的あり方を投げ捨て、個人的あり方に逃げ込みます。そのような人にとって、執事であることはパントマイムを演じているのと変りません。」また「執事はイギリスにしかおらず、名称はどうであれ単なる召使だ、とはよく言われることです。私もそのとおりだと思います。大陸の人々が執事になれないのは、人種的に、イギリス民族ほど感情の抑制がきかないからです。」とも言いきる。
かつてイギリスの"名産品"とも言われた執事は大英帝国華やかなりし頃、第二次対戦前には約3万人もいたが戦後その数が激減したという。私たちに日本人にはあまり馴染みのないイギリスの執事の何たるかがこの小説を通じてある程度理解できたように思います。執事道に徹するスチーブンスの壮絶とも言える生き様は武士道にも通ずるのではとの感想もありました。

登場人物の揺れ動く心理を巧みに表現。スチーブンスがミス・ケントンと再会の帰路立ち寄った、この小説の題名を暗示する、夕暮れ迫る海岸のベンチで偶々隣り合わせて座った彼に「夕方こそ一日でいちばんいい時間だ」と語りかける男と交わすペーソスただよう会話は特に印象的でした。カズオ・イシグロがこの作品を書き、ブッカー賞を受賞したのはおそらく30代前半であることを考えると、彼の並々ならぬ才能と力量を感じざるを得ませんでした。
日系イギリス人のイシグロが、彼の同年代のイギリス人でさえもあまり知らないだろうと思われる、イギリス独特の職業である執事を小説の主人公として真正面に据え、その哀歓を見事に描ききった「日の名残り」を読み了えて、今年が日英修交150年であることを思うと特に感慨深いものがありました。
2008年 3月21日(金) 16:00〜
読んだ本:
「伊藤鶴吉についての論文」
金坂清則著

関西の会員、岩崎宏さんがJSSに送ってくださった、イザベラ・バードの通訳をしたイトー、すなわち伊藤鶴吉についての論文、金坂清則著を読みました。たまたまバードを山形の自宅に泊めて、お礼に小さなグラスをもらったという方のお孫さんが飛び入りで参加してくださり話しは大いに盛り上がりました。
2008年 1月11日(金) 16:00〜
読んだ本:
「翼を持った女」
加藤幸子著 講談社

加藤幸子著の「翼を持った女」を読みました。
イザベラ・バードという明治に日本の横浜から北海道まで旅をした人に宛てた手紙の形式で、著者自身を重ね合わせた思いをつづったものです。読書会も何度かイザベラ・バードを取り上げてきましたのでかなり入れ込んだことになりました。バードの最後の訪問地、北海道へ足跡を尋ねる旅の希望も出るくらいでした。
この本は絶版でしたので入手にかなり苦労しました。これからはその点の留意が必要と思われます。

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