◆不思議の国ブリテン 2010年◆
【第9回】 2010年12月12日(日) 参加者14名
講師:齋藤 公江さん
テーマ:「英国の樹木信仰」

「不思議の国ブリテン」は斎藤公江先生による英国文化探求の連続講義です。
英国は、アングロ=サクソンの多民族国家として世界を最先端の文明に導いてきた国であると同時に、ケルトの歴史の遺る古くて新しい国です。今回は「不思議な」樹木や自然と人間との関わりについての講義でした。
以下にまず先生の要旨です。

■要旨
ケルト・アングロ=サクソンの国、英国はかつて島一面緑に覆われていました。
シーザーは「ガリア戦記」の中で、海のかなたの島、ブリテン島が緑滴る美しい地であることに驚嘆しています。ケルトにせよ、アングロ=サクソンにせよ、かつては「森の民」でした。そこでキリスト教化されても、自然への崇拝が強く、いまでも地方においてはメイデーや5月の祭りのなかに、メイ・ポールや緑のジャックのような形で残っています。
教会の建物をみると、グリーン・マンはそこかしこ見え隠れしていて、いかに中世の石工たちが装飾として教会建築の中にグリーン・マンを刻みたかったのかがはっきり分かります。
政治体制が近代化のなかで整ってきたノルマン王朝以降でも、政治レベルにおいて樹木への信仰は失われませんでした。「不思議の国・ブリテン(英国)」をそんな素朴な樹木信仰をとおしてみてみましょう。
講師の斎藤先生
シャーウッドのメジャーオーク(Wikipediaより)
ブリテンの森や樹木といえば、シャーウッドの森の「メイジャー・オーク」という巨大な樫の木が想い起こされるが、今回先生が話されたのはそのシャーウッドの森の「議会の樫の木」というものでした。
欠地王ジョンやエドワードT、Uがその木の下で議会を召集したのは、木の霊性を政治に利用したと言える。また現在でも木の枝に言葉を書いたリボンを結びつける風習(ちょうど日本の神社のおみくじのように)があるそうで、樹木との霊的な関わりが伺える。

「緑のジャック」と「グリーン・マン」「聖女ウィニフレッド伝説」アーサー王伝説の中の「緑の騎士」に共通するのは首を切り落とされるが、すぐに生き返るというケルト的なものであり、樹木の再生を象徴していて、かつキリストとも関連があるそうです。
特に口から葉っぱを吐き出すグリーン・マンの彫刻が教会の中のそこかしこに見え隠れしているのは、中世の職人たちが目立たないように教会の中に「自然崇拝」を持ち込んだという話は大変興味深いものでした。
さらに「自然」の中でも「岩」「樹木」「水(泉)」などが、日本の神社のご神体とは違う形で、崇拝の対象になっていることなども「不思議」で興味は尽きないお話でした。

今回はこの講義の後に場所を代えてクリスマスパーティが行われました。
次回「不思議の国ブリテン」は来年3月6日(日)に予定されております。
(香川久生)
熱心に話を聴く皆さん
緑のジャック(Wikipediaより)
【第8回】 2010年6月27日(日) 参加者20名
講師:齋藤 公江さん
テーマ:「ウェスト・カントリーからアーサー王埋葬の地アヴァロンへ」

「不思議の国ブリテン」は齋藤公江先生による英国文化探求の連続講義です。
英国は、ローマ帝国やノルマンの影響を受けたアングロ=サクソンの多民族国家として世界を最先端の文明に導いてきた国であると同時に、ケルトの歴史の遺る古くて新しい国です。
今回は特にその不思議な魅力に溢れた「ウェスト・カントリー」を中心とした講義でした。
以下にまず先生の要旨です。

■要旨
ブリテン島にはアーサー王の宮廷「キャメロット」や埋葬の地 「アヴァロン」が数か所存在します。
アーサーは伝説の王ですから、彼の宮廷や埋葬の地がどこにあってもおかしくないのですが、やはり最も有力なのはサマーセットのグラストンベリーでしょう。そこはBC250-AD50年ころまで、ケルト人が高度の文化を築いたブリテン最大の湿地村があった地でもありました。今でこそ、灌漑により、かつての湿地村は乾いた平野になっていますが、「ケルトの黄泉の国ー海のかなたのどこかの地」はここです!と断定したいほど、グラストンベリーは地勢学的にも不思議な力に溢れた地です。幼少のキリストも歩いた地と、人々は信じています。
兎も角面白い。住民たちはここが「アヴァロン」と口を揃えて言うのです。
ウェスト・カントリーはイングランドとは思えない人々と不思議な文化に溢れています。
その不思議の一端に触れてみましょう。
グラストンベリー(トール)
まずは「ウェスト・カントリー」の定義から始まりました。サマーセット、デヴォンなどの5州が一般的で、古代から大陸と幅広い交易を持ち、三大カテドラルと言われるエクセター、ソールズベリー、ウェルズの大聖堂のアーリー・イングリッシュ・スタイルの装飾性は、この地域の豊かさの象徴だそうです。
また、ストーンヘンジなど霊的な場所の連なるレイ・ラインを構成しているところでもあるとのこと。特にグラストンベリーの神秘性は地形そのものの自然の力に因っていて、チャリスの丘とトール(Tor)という150mほどの丘が重なる地点に赤泉と白泉が湧き出しているそうです。アリマタヤのヨセフと幼少のイエスが訪れたという伝説があり、聖パトリック、聖ブリジッドや聖デイヴィッドも訪れているとか。

トールの頂上まで続く小道の渦形模様は、命・死・再生、連綿と続く命をあらわしており、グラストンベリーのアングリカン教会の芝地も渦形紋様に刈り込まれているとのことでした。トールが周辺の湿地帯の中に隆起している様を想像すれば、ここが「アヴァロン島」という伝説も理解できるというもの。
一度ぜひグラストンベリーを訪れたいと思いました。
お菓子、紅茶をいただきながらの質疑応答
質疑に答える齋藤先生(右奥)・映像操作中の難波さん
質疑を兼ねた休憩時間に、齋藤先生のお茶とお菓子をいただきました。
今回の先生お手製は「ショートブレッド」「ジンジャービスケット」「抹茶・チーズ・ゼリーの季節フルーツ添え」でした。濃厚なショートブレッドと香り高いジンジャービスケット、季節のフルーツたっぷりのゼリーは紅茶とよくあい、絶品でした。
先生、どうもありがとうございました。 
(香川久生)
左:抹茶・チーズ・ゼリーの季節フルーツ添え
中央:ショートブレッド
右:ジンジャービスケット
【第7回】 2010年1月17日(日) 参加者18名
講師:廣野 史子さん
テーマ:「ウェールズ『英国の中の異国』」

「不思議の国ブリテン」は斎藤公江先生による英国文化探求の連続講義ですが、今回は関西ウェールズ会の廣野史子さんにウェールズを紹介していただきました。
廣野さんはウェールズの小学校で日本文化を教えた経験をお持ちです。その経験が随所に活かされたお話は大変興味深いものでした。ビデオのナレーションはリチャード・バートン。もっとも“ウェールズらしい男”、つまり男っぽく酒・女にめっぽう強い男(廣野さんの説)、その深みのある声に引き込まれてゆきました。

ビデオはイングランドを意識した、あるいは遠慮したところが各所にあるということで、「英国の中にある異国」という表題のとおり、イングランドとの微妙な関係が印象に残りました。スコットランドのようなあからさまな反抗はしないが、内には秘めたるものがあるということでしょうか。英国国旗はイングランド、スコットランド、アイルランドの国旗を合わせたものですが、ウェールズはその3国が連合する前にイングランドに征服されてしまっていたので、ウェールズ国旗のレッド・ドラゴンはその中に入れなかったというのが象徴的です。

産業革命以降は、その資源特に良質な石炭で繁栄し、カーディフ城を再建したビュート家が石炭で得た富は当時大英帝国一、つまり英国王室よりも金持ちだったとか。
しかし、1970年代からの炭鉱閉鎖で大不況に陥ってしまう。その当時日の出の勢いだった多くの日本企業が進出してウェールズの景気回復に貢献したため、ウェールズ人の多くが非常に親日的だという。廣野さん自身も非常に親切にされ全くホームシックを感じなかったそうです。ただ、最近日本企業の工場閉鎖が相次いでおり、その影響を非常に心配されていました。
パワーポイントでの発表
会場の雰囲気
また、ウェールズ人は、その国歌に「名高き吟唱詩人や音楽家たちが誉れを与えられる国」という一節があるほど詩や歌を大切にしている民族です。ウェールズのイングランド化への対抗がウェールズ・ルネッサンスとなり、これが「アイステッズヴォッド」の復活につながっているとのこと。
この「アイステッズヴォッド」Eisteddfod はウェールズ語のeistedd(座る)という意、詩歌と楽器の競技会の勝者に「宴卓につく栄誉」が与えられたことに因み、現在では毎年8月第1週に、一週間にわたり文化・芸術のみならず、あらゆるWelshness(ウェールズらしさ)を寿ぐ催し物となっています。
次のビデオで、その中のGorsedd Ceremonyという自由律詩・散文・韻律詩の優勝者の表彰式典が紹介されました。すべてウェールズ語で行われる、若干ものものしい雰囲気の祭典で、最後はウェールズ国歌「わが父祖の国」で締めくくられていました。

途中の休憩時間に、斎藤先生の「コーニッシュ・パスティー」と中川さんの「ウェーリッシュケーキ」が登場しました。
特に「コーニッシュ・パスティー」はもともと炭鉱夫のランチで主食の肉やジャガイモなどとデザートのりんごをパイ生地で隔ててひとつとして焼いたもので、本当にすばらしいものでした。
先生、中川さん、どうもありがとうございました。
(香川久生)
聴講された皆さん
今日も熱心です
コーニッシュ・パースティを
説明される齊藤先生
大きなコーニッシュ・パースティと
右がウェルシュ・ケーキ
紅茶と一緒にいただきました
今日も本当においしかった

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