◆関西 St. Andrews Society's Ball 2009◆
関西 St. Andrews Society’s Ball 2009
「セント・アンドルーズ・デイに寄せて」
松井 理一郎

ひねもす冷たい小雨がそぼ降り、午後3時を回ると、早や夕闇が迫る。スコットランド人なら誰しもが“Damp!”と愚痴りたくなるような冬が到来すると、待ちかねたようにフェスティバル・シーズンが開幕する。
10月31日はハロウイーン、11月30日はセント・.アンドルーズ・デイ、12月24〜5日はクリスマス、12月31日はホグメネイ(大晦日)、1月1日は新年、そして1月25日はロバート・バーンズ・デイと言う様に……。華やかなタータン、勇壮なバッグパイプ、そして元気溢れるスコティッシュ・ダンスが冬のスコットランドに暖かさと明るさをもたらすのだ。

11月28日に恒例のセント・アンドル−ズ・ボールが関西セント・アンドルーズ協会主催のもとに神戸クラブで開催された。
昨今の厳しい景気を反映してか、出席者は例年の半分近くの70名程度にとどまったが、幸いにも主催者と協賛者の懸命のご尽力が奏功して、例年に劣らず大いに盛り上がった。
当日は鵜野支部長が外遊のため欠席されたので、当協会からの出席者は正装した清家さんと中川さん並びに我々夫婦の4人であった。当日Toast to the Tartanを演目に加えた主催者側のご意向に沿って、私も十数名のタータン集団の一人に加わった。セント・アンドルーズ・デイがスコットランドの国民の日であり、タータンがスコットランドのアイデンティティである以上、祝賀会当日タータンを着用することはスコティッシュ・ネイションに敬意を表することになるだろうと考えた末の決断であった。
タータンをまとって記念写真
予ねて日本で開催されるセント・アンドルーズ・ボールの出席者は本邦在住の連合王国出身者と地元日本人だけかと思っていたが、会場に行ってみるとEU出身の来場者が少なくなかったことを発見し小さな驚きを感じた。ブリテンもEUのメンバーだから、それは何事の不思議もないのに。総じてEUの様な超国家が域内諸国に影響力を発揮する時代においては、仮に祝賀会一つとって見ても、これを単に一国の歴史的文化的所産の中に閉じ込めてしまうのではなく、新しい国際関係の枠組みの中で新しい意義を問い直すことが肝要であることを痛感し、己の浅慮を恥じた。

祝賀会の冒頭、Chieftainの一人がロバート・バーンズ(1759- 96)の有名な詩「Selkirk Grace」を暗誦した。

”Some have(hae) meat and cannot(cannae) eat, Some cannot(cannae) eat that want it:
But we have(hae) meat and we can eat, Sae let the Lord be thankit!”

私もスターリング大学教員時代に何度も演じたパーフォーマンスだが、スコットランド訛から迸り出るような素朴で土臭い余韻は得もいえず懐かしく、私までが郷土愛にも似た深い感動を覚えたのであった。バッグパイプが先導するハギス献上式も出席者の関心を呼んだ。主催者を代表してニール・マックレガーさんがハギスの歌の一節を暗誦した後、パイパーとベアラー達の一団の一人一人と、Quaichと呼ばれる丼大の器に注がれたウイスキーを豪快に飲み交わした図は圧巻であった。スコットランド人と言えば酔っ払いを髣髴する人が多いように、半端ではないこの飲みっぷりを見ると、スコットランドがスコッチ・ウイスキーに禁止的酒税を課した理由を容易に知ることが出来そうだ。
スピーチする筆者
ハギスセレモニー
天皇陛下と英国女王陛下へのLoyal Toastは当日の重要なプログラムであった。スコットランド人外交官が天皇陛下への、そして私が女王陛下への乾杯の音頭を取った後、マックレガーさんがスコッツに相応しいジョークを連発してスピーチし、会場は沸いた。聞き終わった後思った事は、当日ほぼ半分を占めていた日本人来賓中果たして何人が、この早口でスコットランド訛のユーモアを理解出来たであろうかと言うことであった。ここでその要旨を略記できないのは、私もその語りを理解し切れなかったからに他ならない。若し今後同時通訳の任を担って下さる方が現れれば、日本人参会者にとってどれ程幸せであろうか。

私は今回の祝賀会において、自分の英語の発音が如何に拙劣であるかを思い知らされた。ユーモアを得意とする外国人来場者に敬意を払って、私は「牛の品評会」についてのスコティッシュ・ジョークを披露した。その要旨は「入賞牛はわが国の牛であると言い争うイングランド人とアイルランド人に対して、スコットランド人が『いや、その牛はスコットランドの牛だ。牛にはBagpipeがぶら下がっているからね』」と言うお笑いの一席であった。ところがスピーチ後、「CowがCarと聞こえた」と言う一人のスコットランド人が近寄ってきて、「何故CarがBagpipesと関係があるのか理解に苦しんだ」と私に感想を漏らしたのである。嗚呼、やんぬるかな!

後半のプログラムが始まる前に、私と妻は所用のため会場を後にしたので、残念ながら楽しかるべきダンス・パーティや福引に参加することが叶わなかった。しかし久々にスコティッシュ・アクセントとスコティッシュ・ホスピタリティに触れることが出来、懐旧の情が音を立てて湧き出ずる想いであった。

このあたりで関係各位のご厚情に心から感謝し本稿を閉じたい。
JSS関西からの参加メンバー
ダンスの様子

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