スコットランド便り 120 『オークニーから』

JSS NEWSLETTER スコットランド便り 119(2024/4/10 発行)より抜粋

今回は何をお伝えしようかと考えていた時に、ロンドンに拠点を置くThe Japan SocietyのCEOを務めるMichael Rivera Kingさんから、天皇陛下がご臨席するレセプションへのご招待状のメールを受け取りました。最初は何かの間違いか新手の詐欺かと思ったのですが、すぐに本物のご招待であることが分かりました。
こんな素晴らしい機会は人生で一度あるかないかのことですが、2024年6月24日の3時から5時までの2時間のためにオークニーからロンドンまで行くのは、想像以上に大変なことです。幸い、家族の理解を得てなんとか航空券と宿泊先を確保することができました。
幸運なことに、私が設立に携わったオークニー・ジャパンアソシエーションの新会長を引き受けてくださったマルコム・マクレイさんもロンドン行きの調整ができたので、二人で一緒にレセプションに参加することができました。マルコムさんは以前このお便りで紹介した、明治初期のお雇い外国人技術士ヘンリー・シャーバウ(Henry Scharbau)氏が残した美しい絵日記が発見されたスケイルハウスを受け継いだ方です。現在のスケイルハウスはお嬢さんに引き継がれています。
おそらく日本の皆さんもイギリスを訪問される天皇陛下についての報道を通して、陛下にJapan Houseをご案内するマイケルさんの様子やレセプションの様子をご覧になったと思います。残念ながら会場は撮影禁止でしたので、皆様にはマルコムさんと私のみが写る写真を共有させていただきます。
この光栄な機会を頂いたのは全てオークニー諸島の素晴らしさと、才能ある島民の方々のおかげでした。私は単にそれを紹介している人間に過ぎません。ゆえにレセプションで着る服はオークニーを象徴するものを身に着けたいと思いました。しかしレセプションまで1週間。無謀な私の願望を叶えてくれたのは、オークニー諸島のデザイナー、カースティーン・スチュワートさんでした。
島で生まれ育ったカースティーンさんのデザインには、オークニーの自然や野生動植物、歴史的な建築物などがインスピレーションを与えています。彼女は地元のジュエリーデザイナーや工芸品製作者、様々な組織とのコラボレーションを積極的に行い、オークニーのクラフト界全体を盛り上げる活動を続けている人物です。昨年にはクリエイティブ・オークニーというオークニーの創造業界を包括的に支援する組織のプロジェクト・マネージャーに就任しました。彼女は持続可能なファッション、工芸、ビジネス、循環型経済を常に意識しており、島民が気軽に参加できる洋服の修理技術や古着のアレンジ技術などを教えるクラスや、地元の学校を回ってオークニーの子供たちの創造力を育む活動なども行っています。以前、私が彼女のアクリル板プリントと刺繍のコースに参加したことをこのお便りで紹介したことがあります。
実際に発注したのは出発の5日前にも関わらず、彼女が作ってくれたラップドレス(体に巻き付けるタイプの服)は、ストロムネスミュージアムコレクションにてデザインした模様をプリントした生地を使用しており、そのデザインはオークニーの海と海藻が作る濃淡の水の色、そしてオークニーに生息し貴重種とされる猛禽類チュウヒ(英語名Hen harrier)の羽にある模様からインスピレーションを得たそうです。
オークニー諸島の海洋再生可能エネルギー開発を中心とした環境コンサルタント会社で働き始めたことから始まった日本とオークニーを結ぶ私の活動とシンクロするストーリーを持ち、オークニー諸島を象徴する洋服とアクセサリーを身に着けてレセプションに参加できたことは本当に光栄でした。未だに何故私がこのレセプションに参加できたのか解りませんが、それもオークニー諸島が持つ不思議な魅力とパワーなのかもしれません。

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